『LOU REED’S BERLIN』
2011年1月11日http://metabonavi.net/
『LOU REED’S BERLIN』
2006年12月、ルー・リードは、アルバム『ベルリン』を全曲演奏するという、異例のライブを敢行した。
もしかしたら『ベルリン』は彼にとっては呪われたアルバムだったのかもしれない。
それというのも、ベルベット・アンダーグラウンドを脱退、ソロに転じて、『ROU REED』(72)、『TRANCEFORMER』(72)を発表、特にセカンド・アルバムの『TRANCEFORMER』は当時流行の最先端を行くグラム・ロックの雄、デヴィッド・ボウイの参謀役として才能を開花させたミック・ロンソンが全面協力。ボウイ色の強い華麗なデカダンスな世界が展開され商業的にもヒット、一般的にはルー・リードの最高傑作と言われている。
その次に満を持して発表された『BERLIN』(73)は、ベルリンを舞台にしてのロック・オペラとでも呼ぶべき、異色のコンセプト・アルバムだった。プロデュースをアリス・クーパーの作品を手掛けたことで知られるボブ・エズリンに依頼し、ロック的な音作りから抜け出したヨーロッパ風な味わい濃厚な作品が完成する。
ライブのメンバーはその当時のレコーディング・メンバーであり、その後に発表した2枚のライブ・アルバム『LOU REED LIVE』(74)、『ROCK’N ROLL ANIMAL』(75)でもツアーメンバーとして名を連ねることになるスティーヴ・ハンター(G)、フェルナンド・ソーンダース(B)、ボブ・エズリン(指揮)等、懐かしの面々が33年の時を経て再集結した。
不思議なことに、アルバム『ベルリン』に収録された曲は、これまで一度もライブで披露されていない。
この不遇なアルバムを封印するためなのか、それともライブ受けする曲がなかったのかは定かではないものの、どちらの要因も関係しているように思われる。
『ベルリン』はコンセプト・アルバムゆえ、それぞれの曲は関連付けられている。通常の曲のように、一曲単体で完結するようには作られていない。だからそのうちの一曲を抜き出して他の曲と一緒に演奏すると、どうしても違和感が生じる。それもあって演奏されなかったとも考えられる。
一方、ロック的な音作りから逸脱した作風が災いしてヒットに恵まれず、不遇の作品となってしまった『ベルリン』は、時代の先を行った作品だったようで、正当な評価を得るまでに時間を要した。軽いスランプに陥ったかのように、作品的は2枚のライブ・アルバム、ブラスを加えた音作りの『SALLY CAN’T DANCE』(74)、やけっぱちのオルタナ涅槃ミュージック『METAL MACHINE MUSIC』(75)と、ヒットとは程遠い作品を連発する。
1976年に発売した『CONEY ISLAND BABY』に至って、ようやくスランプから脱した。これはベルベット・アンダーグラウンドの4枚目であり実質ラスト・アルバムでもある『LOADED』(70)の続編的な、西海岸サウンドを彷彿させる音作りがなされ、これまでのニューヨーク臭を払拭させた明るい中での暗さみたいなものを感じさせる作風が新鮮に映った。
さて、33年ぶりに再演される『ベルリン』を映像的記録映画として再構築するのが、『バスキア』『潜水服は蝶の夢を見る』『夜になるまえに』を発表し、独自の作風で知られるジュリアン・シュナーベルだ。
映画はアルバム最後の「SAD SONG」を冒頭に持って来た後、改めて1曲目の「ベルリン」へと続く。
『BERLIN/LOU REED』(1973)
STORY
【今、まさにバルリンを去ろうとしている男が、そこで展開された恋物語を回想する。
しがないバーの踊り子であるキャロラインが客に媚を売るようにして、エロティックなダンスを披露する。それを傍らで眺めている主人公は、そんな彼女の姿に我慢がならない。心の中で止めてくれと叫ぶ。しかし、主人公はそこから彼女を救い出すことが出来ない。
キャロラインは主人公に辛く当る。あなたは子供、男なんかじゃない・・・と。馬鹿にされ、冷たくされても、彼は彼女を追い求めるしかない。彼にとって彼女は氷のクイーンなのだった(もしかしたら彼は彼女のヒモなのかもしれない)。
浮気性のキャロラインは主人公以外の男とも簡単に寝る。ジムと呼ばれる青年とも肉体関係にあった。
しかし、ジムはどうやらゲイで、主人公とも怪しい関係にあるらしい。ホモセクシャルな関係を含んだ三角関係はしかし破滅へとそれぞれを導く。
主人公とジムの関係を知り、誰も信じることの出来なくなったキャロラインは、自堕落になってゆく。麻薬と金のため、誰とも簡単に寝る女と周囲から噂されるようになる。
キャロラインに子供が生まれた。父親は誰なのかはっきりしない。
自堕落な母親に子供を預けておくわけにはいかないと、キャロラインの手から子供が取り上げられてしまう。唯一の生きる望みを失ったキャロラインは、べッドで手首をナイフで切って自殺する。
キャロラインの自殺によって二人の関係も終わった。これ以上ベルリンにいる理由のない主人公は、そこを去る決心をする・・・。】
☆
監督のジュリアン・シュナーベルは、ライブ映像にイメージ・ショットを重ね合わせ、『ベルリン』の持つ魔力的な雰囲気をさらに際立たせようと試みる。全体に古びたようなカビ臭い緑色を配し、現代でありながらどこか60年代にも似た映像を作り上げる。キャロラインに扮するのはドイツ女性特有の容姿と肉体を持った女優だ。それはベルベット・アンダーグラウンドの一枚目にのみ参加したニコの面影を色濃く反映する。
ニコもまた、ウオーホールによってドイツから連れられて来たモデルであり、当時、ルーリードと恋愛関係の噂にも上ったように記憶している。ニコもまた麻薬と手が切れない女性だった。後年、悲劇的な死を迎える。
映画は『ベルリン』全曲の演奏を終え、アンコールヲ迎える。
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド3』より「CANDY SAYS」では、バック・コーラス役の男性を全面にフィーチャーして、自分を消してしまいたいと悩む、キャンディという女性の物語を歌う。想像するに、キャンディとは、今で言う性同一性障害、いわゆる身体は男だが、心は女性に生まれてしまった哀しみを歌った歌のように聴こえる。
もう一曲を挟んで、エンドロールに流れるのはおなじみの『ROADED』から、「SWEET JANE」。ルーのライブでは必ず演奏される定番中の定番。これもヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲。
ルーリード好きにはたまらない、85分。
9月27日より、渋谷シネクイントでレイトショーでの公開。
軽く煽って(この日のTAOのように酒でも飲んで)出掛けましょう!!
ジャパン・プレミア試写会の招待状
『LOU REED’S BERLIN』
2006年12月、ルー・リードは、アルバム『ベルリン』を全曲演奏するという、異例のライブを敢行した。
もしかしたら『ベルリン』は彼にとっては呪われたアルバムだったのかもしれない。
それというのも、ベルベット・アンダーグラウンドを脱退、ソロに転じて、『ROU REED』(72)、『TRANCEFORMER』(72)を発表、特にセカンド・アルバムの『TRANCEFORMER』は当時流行の最先端を行くグラム・ロックの雄、デヴィッド・ボウイの参謀役として才能を開花させたミック・ロンソンが全面協力。ボウイ色の強い華麗なデカダンスな世界が展開され商業的にもヒット、一般的にはルー・リードの最高傑作と言われている。
その次に満を持して発表された『BERLIN』(73)は、ベルリンを舞台にしてのロック・オペラとでも呼ぶべき、異色のコンセプト・アルバムだった。プロデュースをアリス・クーパーの作品を手掛けたことで知られるボブ・エズリンに依頼し、ロック的な音作りから抜け出したヨーロッパ風な味わい濃厚な作品が完成する。
ライブのメンバーはその当時のレコーディング・メンバーであり、その後に発表した2枚のライブ・アルバム『LOU REED LIVE』(74)、『ROCK’N ROLL ANIMAL』(75)でもツアーメンバーとして名を連ねることになるスティーヴ・ハンター(G)、フェルナンド・ソーンダース(B)、ボブ・エズリン(指揮)等、懐かしの面々が33年の時を経て再集結した。
不思議なことに、アルバム『ベルリン』に収録された曲は、これまで一度もライブで披露されていない。
この不遇なアルバムを封印するためなのか、それともライブ受けする曲がなかったのかは定かではないものの、どちらの要因も関係しているように思われる。
『ベルリン』はコンセプト・アルバムゆえ、それぞれの曲は関連付けられている。通常の曲のように、一曲単体で完結するようには作られていない。だからそのうちの一曲を抜き出して他の曲と一緒に演奏すると、どうしても違和感が生じる。それもあって演奏されなかったとも考えられる。
一方、ロック的な音作りから逸脱した作風が災いしてヒットに恵まれず、不遇の作品となってしまった『ベルリン』は、時代の先を行った作品だったようで、正当な評価を得るまでに時間を要した。軽いスランプに陥ったかのように、作品的は2枚のライブ・アルバム、ブラスを加えた音作りの『SALLY CAN’T DANCE』(74)、やけっぱちのオルタナ涅槃ミュージック『METAL MACHINE MUSIC』(75)と、ヒットとは程遠い作品を連発する。
1976年に発売した『CONEY ISLAND BABY』に至って、ようやくスランプから脱した。これはベルベット・アンダーグラウンドの4枚目であり実質ラスト・アルバムでもある『LOADED』(70)の続編的な、西海岸サウンドを彷彿させる音作りがなされ、これまでのニューヨーク臭を払拭させた明るい中での暗さみたいなものを感じさせる作風が新鮮に映った。
さて、33年ぶりに再演される『ベルリン』を映像的記録映画として再構築するのが、『バスキア』『潜水服は蝶の夢を見る』『夜になるまえに』を発表し、独自の作風で知られるジュリアン・シュナーベルだ。
映画はアルバム最後の「SAD SONG」を冒頭に持って来た後、改めて1曲目の「ベルリン」へと続く。
『BERLIN/LOU REED』(1973)
STORY
【今、まさにバルリンを去ろうとしている男が、そこで展開された恋物語を回想する。
しがないバーの踊り子であるキャロラインが客に媚を売るようにして、エロティックなダンスを披露する。それを傍らで眺めている主人公は、そんな彼女の姿に我慢がならない。心の中で止めてくれと叫ぶ。しかし、主人公はそこから彼女を救い出すことが出来ない。
キャロラインは主人公に辛く当る。あなたは子供、男なんかじゃない・・・と。馬鹿にされ、冷たくされても、彼は彼女を追い求めるしかない。彼にとって彼女は氷のクイーンなのだった(もしかしたら彼は彼女のヒモなのかもしれない)。
浮気性のキャロラインは主人公以外の男とも簡単に寝る。ジムと呼ばれる青年とも肉体関係にあった。
しかし、ジムはどうやらゲイで、主人公とも怪しい関係にあるらしい。ホモセクシャルな関係を含んだ三角関係はしかし破滅へとそれぞれを導く。
主人公とジムの関係を知り、誰も信じることの出来なくなったキャロラインは、自堕落になってゆく。麻薬と金のため、誰とも簡単に寝る女と周囲から噂されるようになる。
キャロラインに子供が生まれた。父親は誰なのかはっきりしない。
自堕落な母親に子供を預けておくわけにはいかないと、キャロラインの手から子供が取り上げられてしまう。唯一の生きる望みを失ったキャロラインは、べッドで手首をナイフで切って自殺する。
キャロラインの自殺によって二人の関係も終わった。これ以上ベルリンにいる理由のない主人公は、そこを去る決心をする・・・。】
☆
監督のジュリアン・シュナーベルは、ライブ映像にイメージ・ショットを重ね合わせ、『ベルリン』の持つ魔力的な雰囲気をさらに際立たせようと試みる。全体に古びたようなカビ臭い緑色を配し、現代でありながらどこか60年代にも似た映像を作り上げる。キャロラインに扮するのはドイツ女性特有の容姿と肉体を持った女優だ。それはベルベット・アンダーグラウンドの一枚目にのみ参加したニコの面影を色濃く反映する。
ニコもまた、ウオーホールによってドイツから連れられて来たモデルであり、当時、ルーリードと恋愛関係の噂にも上ったように記憶している。ニコもまた麻薬と手が切れない女性だった。後年、悲劇的な死を迎える。
映画は『ベルリン』全曲の演奏を終え、アンコールヲ迎える。
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド3』より「CANDY SAYS」では、バック・コーラス役の男性を全面にフィーチャーして、自分を消してしまいたいと悩む、キャンディという女性の物語を歌う。想像するに、キャンディとは、今で言う性同一性障害、いわゆる身体は男だが、心は女性に生まれてしまった哀しみを歌った歌のように聴こえる。
もう一曲を挟んで、エンドロールに流れるのはおなじみの『ROADED』から、「SWEET JANE」。ルーのライブでは必ず演奏される定番中の定番。これもヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲。
ルーリード好きにはたまらない、85分。
9月27日より、渋谷シネクイントでレイトショーでの公開。
軽く煽って(この日のTAOのように酒でも飲んで)出掛けましょう!!
ジャパン・プレミア試写会の招待状
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